2002.05.14

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photo and text : Sato Jun Ichi
●本当は撮影に車を使いたくないのだ。堤防上を延々と歩いて小型の樋管をひとつづつ記録していくような気の長い撮影こそがこのプロジェクトには好ましい。しかしさすがに徒歩主体の撮影はさまざまな点で限界を呈してきた。公共交通機関によるアプローチのできない場所には行けない。タクシーですら行くのに抵抗がある場所にある水門というのはいくらでもある。さらに陽のあるうちにまともな場所に帰って来なければいけない。完全な日没後に堤防上を5キロも10キロも歩いたりするのは精神的にかなりこたえるのだ。それに季節や体調の問題もある。2月の東北で陽が落ちてから堤防上を歩いたことがあるが、ちょっとこれはやばいな、という感じで気温が急降下するのは結構スリルがあった。つまり冒頭のような撮影方法というのは、ある意味でかなりぜいたくな行為であるということがだんだんわかってきた●鬼怒川が利根川に合流するポイントにある菅生調整池内のダートを仕方なしに車で走る。以前、ここの排水門である大木水門へ来たときは徒歩で、その日は最終的に30キロ以上歩いた。途中、トレッキングシューズの靴底がはがれて、左右の靴の高さが合わない状態でたどりついたのを思い出して苦笑する。なんだか今考えるとバカみたいな話である●そういえばいろんな人から水門の寂しさを指摘されるのだが、わたしは多摩川あたりの水門では全然寂しくなんかならない。本当に寂しい水門といえばここの大木水門だ。菅生調整池の内側はご覧の通りほとんどが水田だが、堤防の外側は牧草地になっている。牧草地と言っても一気に機械で刈り取ってトラックで運び出してしまうから、のんびり牛なんかがいたりするような雰囲気ではない。菅生調整池内の排水は大木水門を通り、その牧草地の中の水路を経て利根川に流れ込む。大木水門の周囲は、見事に何もない。利根川名物の目障りなゴルフ場もない(実は対岸がゴルフ場なんだけど、そういうものがこの周辺に存在すること自体、考えられないような風景なのだ)。周囲に人家がないので犬を連れて散歩する人なんか絶対に来ない。釣りをする人も見たことがない。気持ちいいほど、というか気味の悪いほど孤絶した水門だ。