2002.04.03

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photo and text : Sato Jun Ichi
●5年ぶりにある場所に出かけていく、という行為は、所詮掘り起こした記憶との整合作業であることが多い。しかし木造だった小さな駅舎がペイントも鮮やかな高架上の駅に変貌していたりすれば、掘り起こされた記憶のある部分だけが使われずに、中ぶらりんの状態になってやがて破棄される。さざなみのような小さな不安の感覚は、視界が見覚えのある駅前のぼろぼろの商店の姿に接続される頃、ようやく静まる●渡良瀬遊水地、何とも不思議な場所だと思う。ひとつの村が水の底に眠っているという例は山奥のダムの常だが、ここは全くの平地、平野のど真ん中だ。隠蔽された鉱毒被害の村と日本最大の遊水地。こんなところに日本最大の遊水地が必要なのは、利根川下流すなわち関東平野北部を水没させないためという理由があるということは言うまでもないのだが。この広大な土地に入り込むたびに、日本の近代を成立させてきた(いる)ものが何であったのか、どうしても考えないわけにはいかない●2年ぶりでひっぱり出した4x5カメラとくそ重い三脚が肩に食い込む。