越えられなかった三つの国境





1 トルコ共和国からアルメニア共和国を見る



Turky-Armenia 1



 ただ青いグラデーションの半球が頭上を覆っている。こういう空もあるのだ。その空間には雲が一つもない。もっともこの季節、雲が湧くほどの量の水蒸気をここらへんの枯れ切った地表が供給できるようにも見えない。

 眼下の緑色に濁った川が、トルコとアルメニアの国境である。国境にはおよそ似つかわしくないような幅の狭い川だ。泳いで簡単に渡り切ることができるに違いない。それよりもここから水面まで崖を降りるほうが難儀だろう。破壊されたままになっている石橋の残骸が、この国境線が自然の境界線というより人為的な境界線であることを強調している。鉄条網も何もないが、対岸のアルメニア側の赤茶色の丘の上には、黒い監視塔が見える。トルコ側にはそんな類のものは何もない。視線を右に90度転じると、石造りの教会や修道院の廃墟が岩のごろごろした荒野に点々と建っているのが見えるばかりだ。

(1992年)





Turky-Armenia 2



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