Yokuji 2


 夢に出てくるような非現実的な急角度の上り坂で、どこからか毛むくじゃらな小犬が現われた。犬がその土地を案内してくれるというのは、山道を歩いているとよくあることで、いつまでも前になったり後になったりして短い足でじゃれついて来るのだ。そのうちに、おや、着いてこなくなったな、と振り返ると、奴は10メートル位後ろにいてじっとこちらを見ている。目が合うとしっぽを振って飛んでくる。そしてまた足にじゃれ始めるのだった。そんなことを何度か繰り返しているうちに、高度が上がって眺望も開けてくるのであった。
 道端にしゃがみ込んで何かを採る女がこちらを見て何か言う。
 あまり正確そうに見えない仕事をしている測量技師と会釈を交すと、やがて最初の峠にさしかかった。
 峠を越えると一応、小さな場面の転換があって、灰緑色の海と小さな島影が二つ、三つ、眼下に見えたり隠れたりした。周囲の海も島も、ぼんやりした光の中に、やはり眠っているようである。
 斜面にへばりつくように石垣を積んだ背の低い農家では、父親が大声で息子を呼んでいた。私は岩陰で休みながらそれを見ている。薄曇りの、春になりかかった夕方。肌を刺さない海風が汗を飛ばした。
 農家、畑、墓、峠という配列を二度ほど繰り返したところで、どこで間違ったのか、道が墓に突っ込んで消え入りそうになったところで引き返すことにする。どうやら散歩で一周できるほどには、薄っぺらな島ではないようであった。



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